社会環境工学科

土木工学は 造る時代から 守る時代へ。

工学部 社会環境工学科 小幡 卓司 教授

高度経済成長期に整備された社会インフラの老朽化が、大きな問題になっています。小幡先生は橋を長持ちさせる研究に取り組み、少ない費用で大きな効果を生む方法を探しています。注目しているのが「たわみ角」のモニタリング。実用化されれば地域の困りごとを一気に解決できると、大きな期待が寄せられています。

研究テーマは橋の“健康診断”。

——小幡先生の研究テーマについて教えてください。

本来の専門は鋼構造工学、鋼の橋です。旭川の旭橋や釧路の幣舞橋など、道内にも有名な橋がありますね。かつては大きな橋や道路をどんどん造っていましたが、バブル崩壊以降、景気の低迷が続いてビッグプロジェクトは減っています。

一方で、高度経済成長期に造られた橋や道路の老朽化が大きな問題となっています。昔は、古くなったら造り直せばいいと考えられていましたが、現在は傷んだところを修復しながら、できるだけ寿命を延ばして使い続けようという考え方にシフトしています。

そのために欠かせないのが、傷んでいる箇所がないかをチェックするヘルスモニタリング=健康診断です。人口減少に伴って地方自治体の財政や人手が不足する中で、それを「誰でも」「簡単に」「正確に」できる仕組みが求められています。私はその方法を研究しています。

——現在はどんなヘルスモニタリングの研究に取り組んでいますか?

これまで橋の点検は、目で見る目視検査や、ハンマーで叩いて音を聞く打音検査が中心でした。ただし、どうしても点検する人の経験に頼ったり、その人の感覚に影響されたりする側面があります。そこで客観的に評価するため、加速度計で振動を測る方法が研究されてきました。ですが、加速度計はそれ自体が高価で、データ送信時にノイズが入りやすいという欠点があります。さらに、加速度は車の通行や人の動きといった重さの影響を受けやすいという問題もあります。

そこで私は、加速度に代わる方法として「たわみ角」に注目しています。

たわみとは、家の梁のように荷重を受けて曲がること。たわみ角は、そのときに橋の部材と接線の間にできる角度です。橋のたわみ角を測ると、橋の強さ(剛性)が分かります。もし橋に損傷があれば剛性が下がり、たわみ角が大きくなる。つまり、たわみ角を調べれば、橋の傷みを早く発見できるのです。

——たわみ角によるヘルスモニタリングは、どのような点で優れていますか?


たわみ角は、車や人の動きといった重さの影響をあまり受けません。さらに最近は製造技術が進歩し、1台1万円ほどのセンサーで正確に測れるようになりました。タブレットやスマホにつなげば、特別な機器がなくても簡単にデータを集められます。

センサーを橋のあちこちに設置して観測すれば、損傷が起きた場所をすぐに特定できます。

現在は実験室で実験用の橋桁にセンサーを設置し、データ収集や解析を進めています。将来はAIを使ったデータ解析アプリの開発も目指していて、安価で高性能なモニタリングシステムの実現が期待されています。

たわみ角は世界を救う。

——たわみ角のヘルスモニタリングは、どう役立ちますか?

今、国内には2メートル以上の橋が約73万橋あり、20年後にはその65%が築50年を超えます。もしこの技術が実用化されれば、手頃なセンサーで24時間365日、橋を見守ることができます。異常があればすぐに損傷箇所を特定でき、ムダな費用をかけずに修理や改修が可能になります。人口減少で地方財政が逼迫する中、誰でも簡単に正確な橋の点検、維持管理が可能になります。

海外でも橋の老朽化による事故が多発しています。たわみ角のモニタリングが広がれば、こうした事故を防ぐことにもつながるでしょう。少し大げさかもしれませんが、私は本気で「たわみ角は世界を救う」と考えているんです。

——すごい可能性を秘めているんですね。

土木工学は今、「造る時代」から「守る時代」へと大きく変わっています。ポイントは、それを実現するために、新しい技術をどう使うか。たわみ角を測るセンサーそのものを開発するのは私たちの仕事ではありません。それをどう使いこなし、どんなデータを集め、どう判断して社会に役立てるのかを考えるのが、私たちの仕事です。

日々進化する技術を組み合わせ、新しい解決策を生み出す。社会の未来を支える仕組みを、自分のアイデアで創り出す——そこに、私たち土木技術者の面白さがあるのです。

——最後に、これから大学生になる皆さんへのメッセージをお願いします。

大学は自由な場所です。勉強に打ち込むのもいいし、遊びやアルバイトに力を入れるのもいい。どう過ごすかを決めるのは皆さん自身です。ただし、その大学生活が将来の基盤になることも忘れないでください。

社会に出てから多くの人が口にするのは「もっと勉強しておけばよかった」という後悔です。私もその一人です。だからこそ、後で悔いが残らないよう、何ごとにも全力で取り組んでほしい。そして「大学時代に何をやったの?」と聞かれたときに、胸を張って答えられるものを一つでも持ってください。勉強もプライベートも充実させ、より良い人生の土台を築いてくれることを願っています。